認定支援機関 行政書士たいぞう事務所の小堀大藏です。
あなたの事業が成功するために何か役に立つ情報をできるだけわかりやすくお伝えしようと考え、このブログを書いています。
今日は、TRSデータインサイト2023/09/18 ~デービッド・アトキンソン氏 単独インタビュー ~(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年9月14日号掲載「Weekly Topics」を再編集)を読み、ご紹介いたしたく取り上げました。
行政書士として、小規模事業者と共に歩んできましたが、このコロナ禍が始まってから、その支援金や補助金の支給手続きのお手伝いをしながら、中小企業の「社会保障」をどこまでも行おうとする、政治家の姿勢と、中小企業庁、政府金融機関、保証協会などの機関の仕組みに疑問を感じてきました。
菅政権の成長戦略会議のアドバイザーとして活躍したデービット・アトキンソンさんについては、このブログでも何度か取り上げてきましたが、今回も耳を傾けたいと思います。
東京商工リサーチ(TSR)は、中小企業の生産性や賃上げなどについてアトキンソン氏にいくつかインタビューしています。
―「中小企業の生産性」問題―については、
アトキンソンは、「日本の中小企業数は全体の99.7%を占める。従業員数でみると、中小企業で働く人は全体の約7割(68.8%)」とした上で、「日本の企業支援策は中小企業に手厚い…法人税の損金算入で優遇され、融資や助成でも支援体制が整っている」と指摘しています。
このため、「中小企業の経営者には「何もしない」インセンティブが働きやすい。これこそが、生産性を含めて努力しない小規模事業者を存続させている原因」であると、アトキンソンさんは断じています。
―「中小企業の定義」―については、
「従業員基準で言うと、小売業が50人以下、サービス業や卸売業が100人以下、製造業などは300人以下だ。諸外国をみると、例えばアメリカは業種に関わりなく従業員数500 人未満、EUは250人未満だ。」と国際比較をしたうえで、「日本は世界第3位の経済大国…人口1億人以上の国」にもかかわらず「…50人や100人を上限にするのは、あまりにも小さい規模に企業を留めることに繋がる」と指摘しています。
「中小企業基本法で従業員数が少なく定義されている小売業やサービス業は他業種と比較して労働生産性が低い。これは規模の経済学の通りだ。私は中小企業の定義を一律500人以下にすることを主張している」と、生産性の低さは、企業規模の小さな小規模事業者が生き残れる環境を政府が維持しているからだとも指摘しています。
すなわち、「中小企業であること自体が特権化している」「…特権を享受しているのは、ずっと生産性が低いままの企業の経営者だ」と厳しく断罪しています。
この環境にどっぷりつかっている小規模事業者を維持してきたのは、日本経済が元気で成長していたことを前提とした中小企業政策であるが、現在の状況下では、その政策はもう継続すべきものではないのだとしています。
すなわち、この中小企業政策に寄与してきた補助金、助成金等の支援策は、その効果を発揮していないにもかかわらず継続しているのが問題だとしています。
小堀には、その継続を維持しようとする組織や資格者等の既得権があるようにも思えます。
―「中小企業の数が多すぎるということか」という質問については、
アトキンソンさんの問題提起に対しては、小規模事業者がいらないということかであるとか、地域経済が崩壊するなどの反論があります。
それに対して、アトキンソンさんは、「私は「生産性が低い中小企業に働く労働者の割合が高すぎる」と言っている。…生産性が高い企業の数は多くて構わない」と答えられています。
「人口は減少に転じており、生産年齢人口の割合も加速度的に低下する。高齢者の割合が高まる中で社会保障を回していかなければならず、社会保障費は今後も増大する。そうすると現役世代の1人あたりの負担は増えるが、日本は長い間、賃金が上昇していない。納税する人が激減するので、賃金が上がらなければ貧困になるだけ」と現実に向き合うことを勧めています。
また、「賃金を上げるために何が必要なのかというと、人口増加要因がないのだから、中身を強化するしかない。つまり、中小企業の生産性を強化しないと国が立ち行かなくなる」と危機感を持って指摘しています。
すなわちアトキンソンさんの指摘は、「手厚い中小企業支援策が日本の経営者を「奇跡的に無能」に陥れている恐れがある」と政府の政策の変更を求めています。
「設備投資をしない、賃金を上げない、金利も払わない、税金も払わない、困った事態に遭遇したら「政府が補填してください」と言う」経営者は、本来の経営者かと苦言を呈します。
(2023年公表の「国税庁統計法人税表」によると、2021年度の赤字法人(欠損法人)は187万7,957社。普通法人(287万3,908社)の赤字法人率は65.3%)
―「中小企業政策は時代時代の最適解であろうと努力しているのではないか。」という質問については、
「支援の在り方についてもさらに変えていく必要がある。支援は行為・行動に対して為されるべきだ。企業規模によって一律に支援するのではなく、「設備投資をする」や「研究開発を増やす」、「人材研修を通じて従業員のレベルアップを図る」などへさらにシフトすべきだ。」と提言しています。
同時に、「行為・行動に支援する場合も、企業規模が小さすぎると効果は薄い。生産性向上に繋がるイノベーションは起こしにくい。」と指摘したうえで、「小規模事業者304.8万社の平均従業員数は3.4人だ。」「この人数で、輸出はできるのか、DXへの取り組みを進められるのか。実現したとして、どれほどの金額を稼ぐことができるのか」と苦言を呈しています。
―「賃上げについて積極的に意見を述べている」がとの質問については、
「日本が直面している人口減少をきちんと認識する必要がある。分散型は雇用促進には役立つが賃上げの観点では障害になる。企業の生産性が向上して稼ぐ力が上がり賃上げされないと、社会保障費は増えるので可処分所得は減る一方だ」と今の政策の転換を求めています。
―「TSRが実施した企業アンケート(※7)では、これ以上の賃上げは容認できないと回答した企業は2割程度だ」との質問については、
「実態把握がないまま「中小企業は弱者だ」「賃上げすると倒産する」と声を上げるのは、生産性の低い中小企業の経営者の声しか代弁していない」と指摘し、「そもそも中小企業は全体の99.7%だ。ほぼすべての企業が弱者なわけがない」とも語っていました。
※7 「2023年・最低賃金引き上げに関するアンケート調査」(調査期間:2023年8月1日~9日)、「貴社で許容できる来年度(2024年度)の最低賃金(時給)の上昇額は最大でいくらですか?」の問いに対して、「許容できない」と回答した中小企業16.3%。ここでの中小企業は資本金1億円未満(個人企業等を含む)
さあ、いかがでしょう。小規模事業者やフリーランスの中には、成功を収めている方も多いでしょう。しかし、他方で、本当は企業に所属し、労働環境も保護されるべき人たちが、実質的に外に出され、「外注費」扱いされているのが実態ではないでしょうか。